○● きっと、いつまでも。
イーストシティにある、大通りに面した小洒落たカフェ。
若い女性から軍人、老夫婦まで、ありとあらゆる年代の人々がその店を贔屓にしている。
チリンチリン・・・
「あら、ちゃんいらっしゃい」
「こんにちは。・・・あの席、空いてます?」
「もちろん、いつもの席ね」
はこの店の常連だ。
毎週欠かさず金曜の午後一時に店を訪れ、紅茶を片手に窓際の決まった席で本を読む。
そして二時を回った頃に帰っていく。
今では店員ともすっかり顔馴染み。
「いっつもそんなに熱心に、何の本を読んでるの?」
「うーん、熱心ってわけでもないんだけど。わたし読むの遅いからなかなか進まなくって」
そう苦笑を零しながら赤い装丁の小さなハードカバーの本を見せる。
店員の女性はティーカップに紅茶を注ぐと、へぇと頷いた。
ここ最近若い女性に人気のエッセイだからきっと店員にも見覚えがあったのだろう。
そのときにわかに外で黄色い声が沸いた。
「あら、大佐だわ」
この街の軍部を若くして束ねるロイ・マスタング大佐の見回り。
頭脳明晰、容姿は抜群、国家錬金術師の資格も持ち、おまけに女性の扱いに長けているときた。
その漆黒の髪に黒曜石のような瞳は言うなれば街の女性の憧れだ。
「ちゃんは興味ないの?マスタング大佐」
「うーん、わたしはいいかな」
嘘。
興味がないわけない。
ついでに言うなら読むのが遅いなんていうのも、真っ赤な嘘だ。
がこのカフェに足を運ぶ時間はロイの見回りの時間とほぼ同じ。
そしての座る席は、広場で町の人々と話すロイの姿が一番よく見える場所。
そう、のお目当てはロイ以外の何者でもない。
とはいえ、一部の女性達のように直接話しかけるなんてことは到底できそうもなくて、
かといってじっと見つめるなんてことも恥ずかしすぎて。
時折カモフラージュのように視線を落とす。
目が合いそうになったときなんかも同じ。
これくらいの距離間で憧れるくらいがわたしにはちょうどいいの、とミオは思う。
傍らにあんな美人な副官を連れているのに、
カフェの片隅に座る美人でもない一女性にロイが視線を向けるとは考えにくいのだけれど。
いつか、いつか。
彼がわたしに気付く日は来るのかしら?
***
チリンチリン・・・
「あら、ちゃん」
「こんにちはー。いつもの場所で、お願いします」
また今週も同じ席に座る。
もうすぐ雨季。雨の降る日はロイは外に出ない。
そういえば、とは思う。
が憧れだした頃はまだ毎週ロイを見ることはできなかった。
初めて彼を見かけた時間に、その場所で。
毎週毎週通いつめるうちに、徐々に徐々にロイを見れる回数が増えていった。
今のようにほぼ毎週見れるようになったのはごく最近のことだ。
いつからこんなに欲深くなったのだろう。
「暫く見納めかしら」
広場でにこやかに挨拶を交わすロイに視線を向けてぽつりと呟く、と。
バチッ
・・・え。
一瞬。
一瞬で目を逸らしてしまったけれど。
「眼・・・合った?」
まさかそんなはずはない。
相手は東方司令部大佐だ、ただの女に眼を向けるはずなんて。
恐る恐る視線を戻した時には、ロイは既にいなかった。
まさか、まさか。
彼がわたしを見るなんてことはあるのかしら?
***
チリンチリン・・・
「わ、ちゃん!いらっしゃい!」
「すごい混んでますね・・・席、空いてます?」
「んー、相席になっちゃうけど。大丈夫よ」
早いものであれから一週間。
予想通りの雨。
雨宿りも兼ねているのだろう、カフェの中はいつもより格段に混みあっている。
・・・カタン
「ここ、いいですか?」
「あぁ、どうぞ」
いつもの席に座って、いつもの本を読みながら、いつもと同じように窓の外を眺める。
しとしとと降り止む気配のない雨。
「これじゃあ今日は来ないわね」
思わずふぅ、と軽くため息をつく。
「どなたかをお待ちなんですか?」
・・・しまった。
今日は相席だということをすっかり忘れていた。
あんな独り言まで呟いてしまった以上、羞恥で顔を上げることすらできない。
「えぇ、まあ」
「ほお・・・あなたに待たれる方は幸せですね。こんな美人を待たせるとはけしからん」
「は、はぁ・・・」
「いや、それにしても残念だ。私はあなたに会いにきたんですがね」
思いも寄らない切り返しにバッと顔を上げる。
そんな、まさか。
「マスタング大佐・・・!」
目の前に座る男性は。
かのマスタング大佐だった。
嘘のような現実に頭が上手く回らない。
外ばかり気にしていて全然気付いていなかったけど、席を立った様子は無かったから。
初めから相席していたのは彼だということになる。
長いことあこがれたその彼は、今わたしの目の前にいて。
かつわたしに会いにきただなんて。
これは、夢なのかしら。
「それで、あなたの待ち人は?」
「・・・あなたです、ロイ・マスタングさん」
返されたのは、今まで見たことのないようなとびきり素敵な笑顔。
きっと、きっと。
今、彼の眼にはわたしが映ってる。
いつまでも、いつまでも。
彼の眼にわたしが映っていられますように。
○● あとがき
久しぶりにロイ夢を書きました! 瑞羽の原点です。
とはいえオンには上げたことなかった気がするので初、かなぁと。
相変わらず書きやすくて、3年のギャップを全くと言っていいほど感じませんでした。
また、書きたいなぁなんてひそかに思ったり。
それでは読んで下さった方々へ愛を込めて。
write...09/04/07